主は、少し精神的に弱い人である。一人で立つには、自らの血を流さねば立っていられない。それもゆらゆらと危うく傾いでいなければならないのだ。
「主、寝るなら部屋に行った方が」
リビングのソファで、僅かに苦しそうな呼吸をする奏を揺り起こすと、がくぽはそう言った。奏は息を吐き出してがくぽを見上げた。
「………怖いから」
奏はそれだけ呟くとうずくまった。近づいてきたカイトが奏の髪を撫でる。マスター、と小さな声。大丈夫ですよ。
がくぽは奏の身体を抱え上げる。奏は少し身じろいで、ぎゅ、と両手を組み合わせた。きつく閉じられた瞼の奥で何かしらの恐怖を見ていることは明白だった。
カイトががくぽを見て困ったように笑う。がくぽは頷くと階段を上がって奏の部屋に入った。もともと開け放されたままの奏の部屋は主の性格を表すように整えられている。
奏をベッドに寝かせると、彼はうっすらと目を開いた。その拍子に、つぅ、と涙が頬を滑り落ちる。
「主?」
「……大丈夫」
奏はそう言って笑うと目を閉じた。
「………」
がくぽは震える寝息を吐く奏の前髪を少し払って、現れた額に軽く口づけた。瞼に唇を落とすと固く握り合わせた指が緩む。解けた指に唇を寄せて、がくぽは部屋を後にした。

主の身体はとても軽く、華奢で、脆い。折れそうなその心で、それでも主は生きている。普段はそんなそぶりを微塵も見せない主だが、ふとした瞬間に酷く弱くなる。
壊れそうで、誰よりも強い主を、私は。


(ありがとう)