がくぽが目を開けると奏の髪が見えた。胸に乗る形で眠っている奏の寝息と鼓動が規則正しく聞こえてくる。
ぴったりとくっついて、がくぽの服を握り締めて、緩やかに呼吸しながら眠る奏。眠ってからだいたい三時間ほど経った。がくぽは奏の肩に置いていた腕を動かして、ゆっくりと数回奏の背をさすった。
奏はいつも、がくぽに過剰に触れてくる。失うのを恐れているのか、ひどく気に入られているか、そのどちらかだ。ただ、がくぽと接している時とそれ以外では奏の態度は大分違う。
カイトなどと接している時が正常だとするならば、がくぽと一緒にいる時の奏は異常というか、壊れている。
過剰に触れ、幼児のように笑い、線と文字を書き殴る。
「主」
狂っているのではない。がくぽは、何となく分かっている。奏は、奏という子は、思っていることをはっきりと口に出すことが出来ないのだ。
だから、がくぽが見て、聞いて、触れているのは、奏の本音なのだ。

甘えていたい、甘やかされていたいという、思い。

枯渇しているのだ。奏の、奏自身への愛情は。
それを無意識に埋めようとした、これは結果に過ぎない。
がくぽは背中を撫でる手を止めた。それと同時に、奏が細く目を開ける。開いた目ががくぽを捉らえた。
「がくちゃん?」
「主、まだ寝ていていい」
奏はがくぽの言葉に目を伏せて、がくぽの腕に頭を乗せた。
「あのね、がくちゃんあのね」
どこかを見ながら奏は呟いた。がくぽは奏の肩に乗せた自分の手を見ていた。
「あのね、聞いて。何も言わないで聞いて」
がくぽは頷いた。奏が笑う。
「がくちゃんの夢を見たよ。紫と青と白ですごくきれいだった。きらきらしてて、楽しかった。あのね、僕、がくちゃんのこと大好きだよ」
「……主」
「だからね、がくちゃんは、僕のこと嫌いでもいいよ」
奏はそれっきり黙った。がくぽが奏の顔を見ると、目を閉じていた。眠っているんだろうか。
頬を一撫でするとくすぐったそうに首を竦めた。
「主」
「………なに?」
「……お休み」
「うん」
おやすみなさい、と言って、奏は今度こそ眠ったようだった。
がくぽは明けそうな空を透かし見るように目を細め、ふっ、と息を吐いた。


(嫌うことなど出来はしないよ、主)