湯船の中で歌いながら鏡と見つめあっている奏の横で、がくぽは結んでいた髪を解いた。すると、奏がきらきらした顔でこちらを見た。 「がくちゃんが髪解いたぁ」 「解かなくては洗えないからな」 流れた紫を美しい熱帯魚を見るようなうっとりした目で眺める奏。がくぽは髪を濡らすと洗い始めた。奏はまた歌を歌い始めた。 「僕もがくちゃんみたいな綺麗な髪の色がいいな」 「私は主の髪が好きだよ」 奏は唇を尖らせた。それからがくぽが髪を洗い終わるまで黙っていた。 「主も洗うだろう?」 「うーん」 奏はふるふると首を振って湯船に沈んだ。出ている目がじいっとがくぽを見る。 がくぽは奏の意図を察して、小さく苦笑を浮かべた。全くもって自分は奏に甘すぎる。カイトも相当だから、奏は随分愛されているものだ。 がくぽの指が奏の髪を掬うたび、奏がけらけらと笑う。気持ち良さそうに目を細める奏を鏡越しに見ながら、がくぽはつつがなく奏の髪を洗い終えた。 シャワーをひねって湯を出し、奏の頭にかける。うー、と奏の呻き声が聞こえた。 しっかり洗い流してタオルで拭く。奏はその間ずっと黙っていた。 「がくちゃんありがとー」 べったりとくっついてきた奏を促し、がくぽは湯船の中に入った。奏は向かい合って足を抱える。 二人で入るのには少し狭い気もしたが、奏が楽しそうなので何でもよかった。 「がくちゃんあのね」 奏が湯船に腰掛ける。 「ありがと、好きだよ」 そう言うと奏は風呂場を出て行った。ガラスの向こうで動いているのが見える。 がくぽは大きくため息をつくと、湯船に深く沈んだ。 がくぽが風呂場から戻ると、カイトが奏の髪を乾かしていた。奏は眠そうに目をこすり、テレビの画面を見つめていた。 「はい、出来ましたよマスター」 「ありがとー」 奏はカイトの頭を撫でるとがくぽを見上げた。きらきら、紫の髪を見ていた時の瞳になった。 「がくちゃんの髪の毛、僕が乾かしてもいい?」 「……構わない」 がくぽが奏の前に座ると、奏はうきうきしながらがくぽの髪を拭き始めた。柔らかく撫でるように進む奏の指が、がくぽの髪を踊っていく。 「マスター、楽しそうですね」 「うん」 かちり、とスイッチが入って、ドライヤーの温かい風ががくぽの髪にかかる。 少しづつ掬っては乾かすのを繰り返す奏の横で、カイトがちょくちょくアドバイスをしている。 「主」 「待って、まだ乾いてない」 がくぽの髪は長いので、乾かすのには時間がかかる。奏の睡眠時間が削れてしまうのではないか。 それを口に出すと、奏より先にカイトが噴き出した。 「大丈夫だよ、マスターはちゃんと考えてるから」 カイトは奏に向かって笑みを浮かべる。奏もにっこりと笑みを返した。 そうしているうちに大分乾いたらしく、ドライヤーの風が止んだ。それと同時に奏が欠伸をする。 「がくちゃん、一緒に寝よう」 そう言って部屋に向かう奏の後を追い、がくぽは階段を上る。階下でカイトがおやすみなさいと言うのが聞こえた。 いい匂いがする、と言ったまま、奏はがくぽにべったりとくっついて眠ってしまった。両手でがくぽの手を握り、それを頬に押し付けるようにして眠っている。 子供のような人だ。いずれ成長して変わっていくようには見えない。奏はこのまま、永遠に成長も退化もないような気がした。 「主、貴方は本当に可愛い人だ」 闇にそう呟いて、奏を抱き寄せて目を閉じた。 |