カイトが僕を食べたりしないのは、僕の腕や足や指が無くなると元に戻らないから。僕はカイトに舐められたりかじられたり、傷つけられたりするのはいいんだけど、食べられるのも嬉しいんだけど、でも嫌だった。僕が日常生活に異常をきたすのだけは、嫌だったんだ。カイトも分かってた。だから。だからカイトは、僕の前で。平然と。
腕を落として見せたんだ。
吹き出た血、カイトはすごく痛いと思うのにそんな顔は一つも見せず、カイトの血で真っ赤になった僕に向かって微笑んだ。
「マスター、僕の事、食べて下さい」
そう笑って、肘から先、切ったばかりの腕を更に小さく切って、一欠片を摘み上げた。僕の唇にそれが触れる。鉄錆の匂い。指で器用に僕の口を開かせて、カイトはぽたりと肉を落とした。僕はカイトを咀嚼する。もぐもぐ、と。こく、と飲み込むと、カイトが嬉しそうに聞いた。
「おいしいですか?」
僕は頷いた。味覚は嫌がっていたみたいだったけど、心は喜んでいた。カイトが僕の中にいる。もっと、とねだるような声を出すと、カイトはますます嬉しそうに笑った。また口に指が入って来て、カイトがカイトを落としていく。僕はそれを噛む。飲み込む。
「カイト、平気なの?」
僕の言葉の意味を察して、カイトは頷いた。
「骨があれば大丈夫です」
カイトはそう言うと腕を拾い上げた。僕に手渡す。不思議に思ってカイトを見上げると、カイトはにっこりと笑った。
「どうぞ、マスター」
かぷ、と腕に噛み付く僕を、カイトが後ろから抱き締める。カイトは僕にくっつく時、いつも後ろから。理由を聞いたら、うなじがいいから、とか。今も、僕の首に噛み付いている。
カイトの腕を嚥下しながら、僕はあっと声を上げた。カイトが顔を上げる。
僕は自分の腕を見た。生憎骨と皮ばかりでおいしそうには見えないけど。ひょい、とナイフを拾う。カイトが不思議そうな顔で僕を見ている。僕はカイトにそれを手渡した。
「食べて」
それだけ言って、また肉を口に含む。カイトはぽかんとしていたけど、意味が分かったみたいできらきらと顔を輝かせた。
「いいんですか?」
「んと、あんまり目立たないところね」
僕が言い終わるのと同時に、右の肩甲骨と背骨の間くらいに痛みが走った。同じところに、カイトの唇の感触。ぺちゃ、と舌が鳴ったのが聞こえた。傷口にカイトの歯が立って、僕の肉を掠っていく。しばらくして。
「おいしいです、マスター」
カイトの声に、僕は知らないうちに笑っていた。良かった、と呟く。
カイトがまたがり、と歯を立てたので、僕もカイトの腕に歯を立てた。