マスターって、ときどきとっても幼稚です。そう言ったらマスターはちょっとだけ笑った。そっかと言った。
にこにこ笑うマスターの後ろから、びっくりするほど煩い電話の音がした。僕は歩いていってそれを取った。
奏くんですかと言われたので、僕は黙ってマスターに受話器を差し出した。マスターは困ったようにまたちょっと笑った。マスターは電話が大嫌いだから。
マスターは電話を耳に当てて、もしもしと言った。きゃあ、ともれた声にマスターがぎゅっと唇を噛んだ。僕は影みたいにマスターに寄り添った。
あのっ、と女の子が名乗った。マスターが無表情に聞く。僕も瞬き一つしない。気持ち悪い。
マスターの顔は真っ白く笑っていた。本当にマスターは幼稚だ。何にも気にしちゃいない。
僕も、新しく世界に入るもの以外は気にしないけど。マスターさえいてくれれば何でもいい。
僕、とマスターが口を開いた。女の子がうっとりしているのが見えるようで、僕は眉を寄せた。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い!
マスターの姿を見て勝手な妄想をして声を盗み聞きしてきれいなマスターを汚して喜んで粘ついた視線でマスターを撫で回して爛れた声でマスターを歌ってああ気持ち悪い!
マスターがちらりと僕を見て、今までにないくらい楽しそうな顔をした。新しい遊びを見つけた子供の顔をした。僕は突然沸騰した心臓に叩きつけられたエラーメッセージを無視しながらそれを見た。

マスターが心底甘ったるい声で、蜂蜜のようにどろりと、お伽話の魔女のように気味悪く名前を呼んだ。

僕は眩暈がした。マスターが人の名前をこんなに気持ち悪く呼ぶなんて思わなかった。同時に、こんなに撫で付けるように呼ばれた女の子にショートしそうな嫉妬を覚えた。
視界が真っ赤になって夢中で手をのばして、瞼と額の裏がエラーと警告で埋め尽くされたとき、僕は電話を叩き切っていた。
突き飛ばしたマスターに馬乗りになって、僕は人間みたいにマスターにキスした。むしゃぶりついた。マスターはにやにやしていた。
ああ、いいように踊らされちゃった。

すっかり静かになった心を持て余して俯いた僕に、マスターはげらげらと笑い声を降らせた。それからぴたっと笑うのを止めて、僕の頭をなでなでした。
人間みたいと言って、マスターはぎゅうっと僕を抱きしめた。
いいこ。どうして電話を切ったの?怖い?女の子のこと僕は知らないのにね。マスターは耳元で笑う。
僕が女の子と付き合うの、いや?と、マスターはまるで問い掛けるように言った。マスターが好きな人間は、響さんと湊斗さんとゆくえさんとひなたさんしかいないくせに、そう聞いた。
マスターは愛せないでしょうと僕が言ったら、マスターは頷いた。

カイト、ありがとう。切ってくれて。

マスターが女の子と会話してるのにすら堪えられないのにどうやって認めろっていうんですか?ねぇマスター。他人がどうにかしてあげないといけないなんて、本当に子供ですね。