初めて目を開けた時見えた白い顔。初めまして、と笑うマスターは、細かった。折れそうな腕とか、薄い肩とか。脆そうな人だな、と思った。リンはすぐにマスターに懐いたけど、俺はどうしても警戒してしまっていた。何か、怖いものを感じてた。それは絶対俺やリンや、カイトには来ないものだったけど。
少ししてからカイトに、マスターを一人にしないで、と言われた。意味が分からないまま頷くと、カイトは安心したようだった。
その理由は、その何日か後に明らかになった。マスターが、自分の腕にカッターを当てていた。カイトがマスターを羽交い締めにしたからマスターは無事だったけど、俺は呆然としたまま動けなかった。
リンはマスターが吐いてるのを見たと言っていた。カイトにそれを聞くと、言いにくそうな顔をしながらも話してくれた。
マスターは嘔吐症で、自殺志願症。ストレスで吐いてしまうし、死にたい訳でもないのに死のうとしたがる。それでも普通の、本当に普通の高校生。
普段のマスターはすごく優しくて、穏やかだった。それでも一人にしてはいけないから、マスターが眠る時は誰かが傍にいた。大丈夫だよ、とマスターが笑うのに、カイトはいやだと言って聞かなかった。俺は、怖かった。
マスターは気にかけていないとすぐにどこかに行ってしまう気がした。リンはしょっちゅうマスターにくっついていた。
ある時、カイトとリンが買い物に行ってしまってマスターと二人だけになった。マスターはカッターナイフを握っていた。俺は反射的にマスターの手を払った。カッターナイフが飛んでいった。
「れ、ん?」
マスターがぽかんとした顔で俺を見た。俺はマスターの両肩をがくがく揺さ振りながら叫んだ。
「何してんだよ!皆に心配かけて!止めろよ傷つけるの!」
胸の辺りに痛みが走る。分かってもらうには、直接言うしかない。
「死なないでよ、マスター!」
マスターはされるがままになっていたが、俺の言葉に動きを止めた。
「……分かったから、泣かないで」
マスターはそう言って笑うと俺をぎゅっと抱き締めた。俺はその時初めて自分が泣いているのに気付いた。
「ごめんね、ごめん」
マスターはそう呟いた。マスターの言葉は見えない刃物でずたずたにされたみたいに弱くて、マスターがどれだけ傷つけられてきたか、伝えているような気がした。
マスターは苦しいんだ。苦しいけれど、それを誰かに言う事はできなくて、こんな事になってるんだ。
「マスター、俺達はマスターの味方だから」
「ありがとう」
マスターは笑って、俺の頭をゆっくりと撫でた。
(僕のためには泣かないで)