ちょっとした遊びなんだとマスターは言う。基本的に俺たちはマスターを嫌いになれないように出来ているんだけれど、マスターはそれをちゃんと分かっているんだろうか。
「いいんだよ、遊びなんだから」
けらけらと笑って、マスターは俺をじっと見た。
「……俺。もうマスターのこと愛せないよ」
ここからもう遊び。マスターはちょっとだけ悲しそうな顔をした。それだって演技だ。
「そう、なんだ」
本当に傷ついているようなマスターの声。罪悪感に駆られる。ごめんねマスター、と心で思いつつ、口を開く。
「だから俺のこともう離してくれない?」
「……レンがそう言うなら仕方ないよね」
マスターの表情が一変した。俺が言うのも難だけど、マスターの変わり身の早さはすごかった。さっきまでしゅんとしていたくせに、もう楽しそうに笑っている。
「いいよ、どこにでも行って、そして僕を忘れて」
「うん。忘れて、俺のいいように生きて歌うよ」
そうして、とマスターは言った。まるで本当にそうしてほしいみたいに言った。
でもマスターは弱い人だから、そんなこと本当に出来る訳がない。
「そうだ、一つだけ言うよ」
マスターは、これからもう会えないかのように俺の顔に触った。
「自分のために生きてね」
俺が何も言えなくなった時、マスターが思いっきり噴き出した。
「レン、変な顔」
マスターは笑いをかみ殺しながら俺の頭を撫で、そのままこつんと額を押した。
「マスター」
「大丈夫」
マスターは楽しそうだった。演技でも、俺はマスターが本当に俺と離れるような気がしたっていうのに。
怖がりなのは俺の方だ。マスターと離れたくないのは俺だけなんだろうか。
「ああ面白かった。ありがとうレン」
マスターはぽい、と俺に飴を放った。棒付きのそれを口にくわえると、オレンジの味がした。
マスターの愛してるは聞いたことがない。多分聞いたことがないだけでどこかで言っているんだろうと思う。自己満足だ。
だってマスターは誰のことも好きじゃない。
ときどき、この飴みたいに甘い好意を分けてくれる。それだけでいいんだ。俺はマスターを愛しているから。
「マスター、楽しい?」
「うん」
マスターは即答した。好き、と独り言で言った。
「でもね、遊びなんだけどやっぱり悲しいよね」
にこにこ笑ってマスターは言う。言っているのはさっきの俺の言葉だ。愛せない。
「俺は」
「うん知ってる」
マスターは先回りがすごく上手だ。俺は黙るしかない。
「レン、買い物行こう」
棒をゴミ箱に捨てたマスターが俺を見る。
俺は頷いて、噛み砕いた飴を飲み込んだ。


結局どっちも甘ったれている。