らんらんらーん、とリンが鼻歌を歌いながらキッチンに立っている。奏はそれを眺めながら、手元にあった果物ナイフで林檎をするすると剥いていた。皮はすでに剥き終わっていたが、このままナイフを離すと何かとんでもないことが起こるような気がしていた。リンまだかなー、と奏は心の中で呟いた。するする。
「マスターおまたせ……ってあー!」
リンが慌てて駆け寄ってきてナイフを取り上げる。当然林檎の皮は剥かれなくなり、これ以上実が削られる事もなくなった。リンが頬を膨らませる。
「マスター、林檎あんまり剥くと食べるとこなくなっちゃうよ」
「ごめんごめん」
奏は苦笑すると、少し細身になった林檎をリンに差し出した。
「それじゃあ、あとよろしく」
「マスター、部屋に戻っちゃダメだからね」
立ち上がりかけた奏を制したリンが唇を尖らせる。
「せっかくマスターと一緒に林檎食べようと思ってるのに、手なんか切られたら困るよ」
「あー、そっか」
奏はまた座りなおすと、困ったように笑った。
「ごめんねー」
「もう、いいから。はい林檎」
リンが綺麗に切った林檎にフォークを刺して差し出してきた。奏はそれを受取って林檎に噛みつく。
「うん、おいしい」
「でしょ」
リンがえっへんと胸を張る。奏がフォークを眺めていると、リンの手が伸びてきてそれを取った。
「だーめー!」
「分かったから怒らないで、リン」
「怒ってないもん」
リンはそう言うと林檎にフォークをどすっと突き刺した。
「はいマスター」
「ありがと、リン」
奏は林檎を食べながらリンの頭をよしよしと撫でた。