最近マスターはよくソファでうとうとしてる。この間は横になってすやすや寝てた。でもマスターはうとうとしたと思ったらすぐ跳び起きて、かたかた小さく震えてる。
私が大丈夫?って声をかけると、マスターは肩をぎゅうっと握って笑って、大丈夫、って言う。どう見たって大丈夫じゃないから、いつもカイト兄さんにすごく心配されてる。でもマスターは、大丈夫、って笑う。
でも私は知ってる。マスターが、眠りながら泣くこと。
前、テレビを見ながらマスターが寝ちゃった時。私はテレビを消して、マスターにタオルケットをかけてあげようと思って振り返った。そしたら、マスターの閉じた目から、ぽろっ、て涙が零れた。涙はどんどん流れていくのにマスターは全然起きなくて、ソファに小さな池ができた。私は手でマスターの頬を擦って涙を拭って、黙ってタオルケットをかけた。
マスターはゆっくり呼吸して、ちゃんと眠ってた。
その後目を覚ましたマスターに、私は夢の中身を聞くことができなかった。マスターがどんなに泣いたって、その夢はマスターを離してくれなかったから。
私は怖かったんだと思う。マスターが、あんなに優しいマスターが辛い夢を見ているっていうことが。
今日、マスターはレンに寄り掛かって寝ちゃってる。時々呻いて身じろぎするからレンも困ってるみたいだった。横にしてあげた方がいいのかな?
「レン」
「起こした方がいい?」
レンは小さな声で私に囁いた。私はマスターを見た。マスターは相変わらずきゅっと眉を寄せて、何だか苦しそうだった。
「うん」
レンはマスターの肩をぽんぽん、て叩いた。マスターが目を開ける。ぽやんとした目が、ぱち、と一度瞬きをしてすぐに笑う。
「ごめん、寝ちゃった」
「マスター、横になったらいいのに」
レンが呟いて立ち上がる。マスターはごめんね、って言って横になった。私は大丈夫だよって返してマスターの頭を撫でた。マスターは目を細めると、そのまま寝ちゃった。両手をぎゅって握り締めるのはマスターの癖。
レンはマスターの前に座り直すとまたテレビを見始めた。私はマスターの頭のすぐ横に座る。レンが微かに溜息をついた。
「大丈夫かな」
私はマスターを見た。そしたら、マスターの唇が震えてるのが見えた。
「……マスター?」
「………っ、う」
マスターが小さく泣き声を上げたと思ったら、つぅ、と涙が流れ始めた。レンが驚いたみたいにマスターの頬に手を当てる。私はマスターの髪を撫でた。
「大丈夫、大丈夫だよマスター」
マスターがびくっ、て怖がるみたいに震えて目を覚ました。マスターは息が震えてて、荒かった。
「マスター、大丈夫?」
レンの声にマスターは安心したみたいに手を解いて、笑った。でもまだ涙は全然止まらなくて、ぼろぼろ流れてた。
「大丈夫、怖い夢見ただけ……」
マスターは身体を起こしてそう言った。レンがマスターの隣に座る。マスターは自分の肩に縋り付いてるみたいだった。私はマスターに抱きついて言った。
「泣いてもいいよ!」
マスターは目を大きく見開いて、それからくしゃりと顔をしかめて泣き出した。レンも反対側から抱きついて、マスターを守るみたいにくっついた。
マスターは声も上げないで泣いた。真珠みたいにきれいで悲しい涙が、何度も何度もマスターの頬を流れていった。私とレンはその間黙ってマスターを抱き締めていた。そうしないとマスターは危ないと思った。
マスターは泣き止んだ瞬間気を失っちゃった。私は慌ててカイト兄さんを呼んで、マスターを部屋に連れていってもらった。響さんに連絡したら、きっと疲れてたんだね、って辛そうに言ってた。
私は眠ってるマスターの幸せそうな顔が崩れるのが目に焼き付いて離れなくて、マスターの部屋に行った。マスターはまだ起きてなかった。
「泣いていいからね、マスター」
私はそう言ってマスターの手を握った。マスターは、まだ、心が起きられないから、起きられない。
(マスターが笑ってなくても、私マスターのこと大好きだよ)
(だから無理して笑わないで)