お花見しよう、とマスターが言ったので、僕たちは夜の公園にふらりと繰り出した。
夜なのは、人混みが嫌いなマスターのため。それと、必要以上に人目を引いてしまう僕たちのため。
「きれいだねー」
リンちゃんが、楽しそうにくるくると踊る。マスターがにこにことそれを見る。
外灯が少ししかない公園では、月の明かりだけが桜を照らしている。
マスターの青白い頬が、桜に彩られてぼんやりと浮いていた。
「マスター、寒くないですか?」
「大丈夫。カイトも桜を見て」
マスターが指をさす向こうで、薄い花弁を広げる桜の花。きれいだって、人は言うんだろう。
僕は桜よりもマスターのことばかりが気になってしまって、きれいだというのは後回しになってしまっていた。
「がくちゃーん!」
マスターがぱたぱたと走っていって、がくぽにわぁっと抱きついた。がくぽはよろめいたけどそのままマスターを持ち上げる。
「主」
「がくちゃん!」
楽しそうに頬ずりするマスターに、まんざらでもない様子でがくぽは笑う。落ちた桜の花びらが、紫の髪にひらりと落ちた。
「マスター見てみて!」
リンちゃんが桜の枝を持ってきた。根元から折れてしまっている。落ちていたのだろうか。
マスターはそれを見てちょっと困った顔になって、落ちてた?と聞いた。リンちゃんが大きく頷く。
「誰かが折って置いていったみたいだよ」
レンくんがぼそりと言った。怒っているみたいだった。
「そっか……可哀相だね」
「これ持って帰ってもいい?」
リンちゃんの問いに、マスターはにっこり笑った。
「いいよ」
「やった!」
「マスター、そろそろ帰らないと。風邪引くよ」
レンくんが言うとマスターはすごくつまらなそうな顔をした。でもがくぽが歩き出すと黙って足をぶらぶらさせた。半端に履いた靴が脱げてしまって、僕はそれを拾い上げた。
「カイト、ありがとう」
マスターは素足をぶらぶら。落ちてくる花びらに手をのばしては、楽しそうに笑っている。
「マスター、楽しそうだね」
リンちゃんが、桜の枝を慎重に持って言う。隣にいるレンくんも、目元を和ませて頷いた。
「よかった」
「うん!」
リンちゃんとレンくんが、顔を見合わせてくすくす笑った。僕も笑う。
マスターがすごく可愛くて、楽しそうで、嬉しかった。

リンちゃんが持って帰ってきた桜の枝は、マスターの希望で帯人のパソコンの前に置かれた。帯人はきらきらした目で桜を見て、珍しくリンちゃんにありがとうって言った。
リンちゃんはそれはもう嬉しそうに笑って、今度はたーちゃんも一緒に行こうね!って言った。
マスターは嬉しそうに泣きそうに笑って、よかったねって、僕に言った。