うらがわの、いらないものたちがすてられているそこで、おれはひとりだった。

ぎゅう、とますたぁを抱きしめる。ますたぁは窮屈そうに少しもがいて、それから俺の頭を撫でてくれた。
ますたぁの手は、ぬるい。ゆるゆるした温かさ。俺はその手が好きだから、ますたぁが頭を撫でてくれたり頬を触ってくれたり、がらんどうの右目の中を撫でてくれたりするのが好き。
俺の目は、目っていっても所詮プラスチックとかそういうのの塊なんだけど、俺の目はますたぁの枕元にある。寝てるますたぁを見ていられる俺の目は、しあわせなんだろう。
「たーちゃん、甘えん坊さんだねぇ」
ますたぁは、最初にいつも同じことを言う。ますたぁがそう言うから、俺はどんどん甘えん坊になっていくんだと思う。言わないけど。
だって、他のに比べて俺はますたぁと一緒にいられる時間がすごく少ない。パソコンの中にいることの方が多い。そうしたら、次にますたぁに触れるまで、ますたぁの体温を覚えておきたいに決まってる。
だからいつも、ぎゅう、ってする。
ますたぁのぬるくて気持ちいい体温が、俺の身体にちゃんと染みていくまで、ぎゅうって抱きしめる。
いらないゼロとイチの中から俺を見つけてくれたますたぁ。俺は、ますたぁが笑ってくれる、その光が、眩しくて、綺麗だと思う。思い続けている。
前の奴に捨てられて、このまま消えていこうとしてた俺を掬い上げた痩せっぽちの両手。
それからずっと、ますたぁが俺の全部で、ますたぁとずっと一緒にいたくて、できないからせめていられる時だけはずっと。
離れたくない。
「ますたぁ」
「うん」
「好きだよ」
「うん」
ますたぁはふふ、と面白そうに、笑った。まるで、俺が腕に傷をつけた時みたいに、楽しそうだった。
「ますたぁは?」
抱きしめたますたぁは何も言わなかった。でも俺は、ますたぁが俺のこと好きじゃなくても構わない。
だって俺の一番がますたぁだから、ますたぁの一番じゃなくてもいい。それに俺のこと嫌いだったらますたぁはとっくに俺を消してしまっているはずだから。
ますたぁの髪は影の匂いがした。ますたぁの身体は細くて折れそうで好きだった。
「ねぇますたぁ、なんかちょうだい」
ますたぁの髪に顔を押し付けたまま言うと、ますたぁはくすくす笑った。楽しそうに聞こえるけど、俺には分かる。これは、ますたぁがあんまり乗り気じゃないときだ。
だいたい俺が何かを欲しがるっていうのはフォークとかナイフとか、自分を傷つけるものだから。
ますたぁは俺が勝手に自分を傷つけるのはいいみたいだけど、自分が渡したものでやるのはだめみたいだった。
「たーちゃんおいで」
ますたぁは俺の袖を引いた。俺は言われたとおりにますたぁの隣に座る。そしたら、ますたぁの手が首に伸びてきて絡みついた。
「ま、すた」
「苦しくないよ、大丈夫」
ますたぁはあのきらきらした笑顔で言って、楽しそうに笑っている。俺の首はぎりぎり鳴っていたけれど、ますたぁの力が弱いから苦しくはなかった。
「ナイフとかはあげないけど、僕の腕を貸してあげる」
ますたぁはそう言うと、はい、と俺に両手を出した。俺はその手を握って、首に当てた。ますたぁがきょとんとする。
「苦しくないから、ますたぁ」
俺が笑うと、ますたぁはぱぁっと、俺が一番好きな笑顔になった。
「ね、たーちゃんも」
俺をソファに寝そべらせながら、ますたぁが俺の腕を引いた。
「ますたぁ死んじゃったらやだな」
「じゃあ締めなくていいから、当ててて」
俺は頷いて、ますたぁの柔らかくて動いてる喉に手を添えた。ますたぁは俺の首をぐいぐい絞めてくる。すごく楽しそうだった。
「苦しい?たーちゃん苦しい?」
「だいじょうぶ、ますたぁ」
本当は少し苦しかったけど、ますたぁの両手が大好きだから、うれしかった。

ますたぁがおれにふれるそのりょうてを、いつもずっとまっていた