奏がテレビを見ていると、足音が近づいてきて、背中に重みがかかった。む、と小さな声。
「ますたぁ」
「どしたのたーちゃん」
奏が振り返ると、紫の髪が見えた。帯人。カイトの亜種。
「ますたぁ、俺のことかまって」
かまってかまって、と催促され、奏は苦笑しながらテレビを消した。たーちゃんは甘えん坊だねぇ、と呟くと、背後の重みが増す。
「ねーますたぁ、手首見せて」
いつのまにか隣に座った帯人が奏の手首を握った。奏は仕方ないねと笑うと、するりと袖をまくりあげた。白いそれを、帯人の赤い舌がつぅっと舐める。ますたぁ可愛いよねぇ、と帯人は笑った。
「ますたぁ、やっぱり俺が切ったり刺したりすんのやだ?」
奏は帯人の問いに曖昧に首を傾げた。くすぐったいと言われて、帯人は奏の手首に歯を立てる。
「僕がやだって言っても、たーちゃん止めないもんね」
「うん」
「じゃあ僕が何言っても無駄じゃないの」
「うん」
「たーちゃんてば」
奏は声を上げて笑うと、帯人の目の包帯に手を当てた。ぐ、と押し込むと帯人の顔が小さく歪む。
奏は笑みの形の顔のまま、だんだんと手に力を込めていく。
「ますたぁ」
「だってたーちゃんのこっちの目ないもんね」
正確にはあるけれど目としての機能がない。いっそ。
「ねぇ、たーちゃん」
「何?」
奏はぱっ、と帯人の目から手を離した。
「たーちゃんは僕のこと好き?」
「好きだよ」
帯人は奏に抱きついた。奏は引き攣るような笑みを浮かべたまま、よしよしとあやすように帯人の頭を撫でた。
視界の端に見えるディスプレイから、一瞬戸惑うような視線が注がれる。奏は目を細めて、もう少しね、と合図した。
「たーちゃん、大丈夫だよ。僕たーちゃんのこと好きだからね」
くすくす。帯人の耳に奏の笑い声が聞こえた。帯人が奏の顔を覗き込むと、奏の手がまた目にのびた。それから強く押される。ぐち、と包帯の下が鳴る。奏が帯人の包帯を取った。まだ笑っている。



「取れちゃったってことでいいよね」



「ますたぁ、どうするのそれ」
白と紫の丸を手のひらで転がす奏は、帯人の言葉にえへ、と笑った。
「僕の枕元に置いておこうかな」
帯人は嬉しそうに笑って、奏の額に自分の額をくっつけた。