奏は目を覚ました。普段聞こえている音が聞こえていなかった。奏以外の誰かが立てる音が消えていた。奏はベッドから身を起こし、部屋の扉を開けた。
しん、としたままの、家。
「……カイト?」
いつもなら聞こえてくるはずの声が、聞こえない。カイトだけだったなら、黙っているのだろうと思えた。物音ひとつしないことを除けば。

だけど、リンやレンの声が聞こえないのは?

奏は一歩踏み出して、びくりと身体を硬直させた。
空気が死んでいる。奏以外、誰もここを動いていない。
カイトが来る前に戻ったようだった。奏だけの家。奏の空気、奏の気配。
奏は急いで一階に降りた。リビングの扉を開けると、そこにいたのは一人の紫。

「たー……ちゃん?」

「おはよ、ますたぁ」
笑う帯人を見て、奏の背筋に悪寒が走った。初めて帯人を怖いと感じた。奏は耳元に響く心臓の音を聞きながら、小さく声を出した。
「カイトは?」
「いないよ」
「リンとレンは?」
「いない」
「……がくちゃんは?」
帯人は立ち上がってくすくす笑った。右目が歪む。
「いない」
「……っ!」
奏は弾かれたように走り出して、二階の部屋の扉を開けた。いないと分かれば、次の部屋。
「カイト!リン!レン!がくちゃん!」
階段から帯人の足音が上ってくる。笑い声が聞こえる。奏の指が震える。
「いないよ」
震える指で懸命に自室の扉を開けようとしていた奏の耳元で、帯人はくすりと笑った。
「俺が皆アンインストールしちゃった」
ぎゅう、と奏の細い身体を抱きしめて、帯人は奏の耳朶に舌を這わせた。奏がびくっと泣きそうに跳ねる。
「アンインストー、ル?」
「うん」
奏が勢い良く振り返った。帯人の胸倉を乱暴に掴んでがくがくと揺さぶる。
「なんで?なんでそんなことしたの!?どうして!?」
帯人は奏の肩を強く押さえつけた。怯える光を宿す瞳を覗き込みながら笑う。

「ますたぁは俺だけのものだから」

気を失って崩れ落ちる奏の身体を抱きしめて、帯人は嬉しそうに右目を細めた。










「……だったらいいのに」
パソコンの中で膝を抱えて、帯人は小さく呟いた。
皆消してしまってますたぁと二人きりで、幸せ。
「でもますたぁ、絶対俺のこと許してくれない」
ますたぁが悲しむ顔だけは、どんなことがあったって見たくない。
「…………大好きだよ、ますたぁ」



だから俺のことだけ見てて、いつも思ってるけど言葉に出せないだけなんだ。