ますたぁなんか歌って、と帯人が催促してきたので、奏は持っていたゲームのコントローラーを離した。
「何がいい?」
「なんでも」
奏は少し考えたあと、ゆっくりと口を開いた。

−壊れた機械は夢を見ている
永遠に覚めぬ時を奏でて
 あとどれくらいの夜を紡げば
 貴方を照らす光になれる?
 手を解かないで
 貴方を追って逃げたくなるから
 せめてその優しい温もりに抱かれて
 咲かせて
 Just call my name.So call my name.
 散りゆくひとひらを結んで下さい
 貴方のその腕で−

帯人は黙って奏の歌を聞いていた。奏は歌いながらゲームを再開する。かんかんかん、と鉄の階段を昇る音。走るノイズ。奏がコントローラーを握りしめた。
「ますたぁ、この人は?」
「この女の子のお父さん」
さっさと倒してしまった奏が階段を昇る。もうそこまで来ていた。
「零式」
かちかち、と奏がコントローラーを操作して、カメラに黄色いフィルムを装填する。
「たーちゃん、ちょっとだけ静かにしてね」
「ん」
頷く帯人の頭を撫でてから、奏はかちりとカメラを構えた。
「咲夜さん、咲いてるなぁ」
赤い着物の女性。咲夜さん。顔がぐちゃぐちゃで、綺麗なんだろうけどわからなかった。奏は軽快にシャッターを切る。悲鳴。
「……うわ、ピアノ……」
慎重な手つきで鍵盤を叩いた奏が、成功したことに息をついてコントローラーを置いた。
「たーちゃん、よく聞いてて」
帯人は頷いて、画面に目を向けた。咲夜さんが消えていった。ピアノの音。
「………あ」
聞こえてきた歌は、先程まで奏が歌っていたものと同じだった。
「これの曲だったんだ」
「そうだよ」

−私はまだ私でいられる?−

「ねぇますたぁ、この歌俺に教えて」
「いいよ」
奏は帯人の頭を撫でた。
「いっぱい覚えて、僕に歌ってね」
「うん、約束」
帯人は奏に抱き着きながら笑った。奏は笑いながら頷いた。

−無数に響く音色の中で
 私の声はちゃんと聞こえる?−

奏は帯人に一音一音拾わせるように歌う。帯人はじっと奏の口を見ている。
「はい歌って」
「うん」
帯人は息を吸った。奏の音をそのまま歌う。奏は頷いて、それから言った。
「たーちゃんはたーちゃんの思ったとおりに歌うんだよ」
「……わかんない」
帯人が首を傾げると、奏は肩を竦めて苦笑した。
「何か感じたら、そのまま歌って」
奏は帯人の手を取った。

「たーちゃんの心を聞かせて」

それが僕のお願い。
帯人は頷いた。
「ますたぁのためなら」