膝の上にのった頭が、奏の声に合わせてゆらゆらと動く。時々声が止むと、ねだるように帯人が膝を叩く。
「もう、たーちゃんは甘えん坊だよね」
「んー……ますたぁ、まぁだ」
鼻にかかった声で呟いて、帯人は閉じていた目を開ける。奏は帯人の肩をぽんぽん叩きながら、少しだけ笑った。
「うん」
「ますたぁ、お願い」
帯人は奏の膝にうつ伏せになって、ぐりぐりと額をこすりつけた。奏が楽しそうに笑う。
「大丈夫、たーちゃんはいい子だもん」
奏の指が緩やかに滑り、声が歌う。
「ますたぁ」
ますたぁは、いつだって俺のわがままを聞いてくれる。それから、絶対に怒らない。俺はますたぁに甘えている。
本当は、こんなわがままが言いたくてここにいるんじゃない、と思う。だけど俺はこれ以外に上手に感情を表現することはできないし、ますたぁがこうやって甘やかしているからこれしか分からない。
ますたぁの指は白くて細くて、形だけ見れば俺のそれと何一つ変わらなかった。
だけどその指は俺のみたいに硬くないし、折れてもすぐに戻るわけじゃない。
脆い。ますたぁはとっても脆くて、柔らかくて、壊れていた。
「ますたぁ、俺、どうしたらいいんだと思う」
どうしていたら、一番良かったんだと思う?
あのとき見つけてもらった瞬間に、俺はすごく嬉しかった。だけど、結局俺は壊れているままで、ますたぁへのくだらない独占欲だらけ。
「……たー、ちゃん」
奏はすっかり黙ってしまった帯人の頭を撫でた。何を言おうか考えているうちに、帯人はまたきゅっと俯いてしまった。
「大丈夫」
「ますたぁ」
奏は、かすかに泣きそうな帯人の声を聞いた。それでも奏にできることはあまりにも少なかった。
「ねぇ、たーちゃん」
小さく、奏の声がする。
「僕は、あのときたーちゃんに会えてよかった」
「ま、すた」
「だから、きっと嬉しかったんだよ」
奏の笑みはいつものようにすぐに消えそうで、帯人は一生懸命それを網膜に焼き付けた。
「大好きで、いいんだよ」